「勉強好きの子どもを育てよう」という罠
夏休みに入ったので、
「楽しく勉強する子が勝手に育つ お父さんとお母さんのための賢者の子育て!」
というタイトルでイベントを開催しました。
会場を提供してくれたのは六本木のお寺、妙善寺さんです。
なんと、グランドハイアットの隣です。
台風が接近しており、開催するか最後まで悩んだのですが、
結果的には多くの方が来てくれました。
さて、今回のテーマは「楽しく勉強する子が勝手に育つ」にはどうしたらよいかということなのですが、
実はこのテーマには大きな罠が潜んでいます。
もちろん、それを知りつつわざわざ選んだテーマなのですが。
「子どもを勉強好きにするにはどうすればいいか?」
「勉強に対しどのように動機づければいいのか?」
「どうしたら子どもの好奇心が育まれるのか?」
教育熱心なお父さんお母さんはこのようなことを考えます。
素晴らしいことなのですが、実はこれが「反対」なのです。
次のグラフは、ベネッセと東大の調査で「勉強が好きでない」と答えた子どもの割合です。
「中学生になると6割が勉強嫌い!大変だ!」という文脈でニュースになった調査ですが、
面白いのは学年を経るごとに「勉強嫌い」が増えていることです。
小学校の段階では勉強嫌いは3割もいないのに、中学生になると6割近くに増えるのです。
このグラフを見る限り、子どもは成長の課程で勉強好きになるわけでなく、学校に通っている間に勉強嫌いになってしまうのです。
「いかに子どもを勉強好きにするか?」よりも
「いかに子どもを勉強嫌いにさせないか?」の方が現実的な問いなのです。
もう一つ興味深いのは、小学1年生から3年生までのグラフです。
このグラフで小学1年生から3年生までで色が違うのは、子ども本人でなくて保護者に聞いたデータということです。
小学3年生で勉強嫌いが35.9%、小学4年生で26.7%となっていますが、これは4年生になると突然勉強好きが増えるわけではないでしょう。
おそらく、小学3年生も、子ども本人の自己評価では「勉強嫌い」は4年生と同じ20%から30%と思われます。
親が思っているよりも、子どもたちは「勉強好き」なのです。
とすれば、親から見ると勉強嫌いの小学1年生は21%ですが、実際は10%ぐらいなのではないでしょうか。
そして、このペースで行けば、3歳ぐらいの時点では勉強嫌いはほぼ0。ほぼ全員が勉強好きということになります。
そう、人間は生まれたときは全員が勉強好きなのです。
ではなぜ勉強好きで生まれた子ども達は、だんだん勉強嫌いになってしまうのでしょうか?
イベントで紹介した、子どもが勉強嫌いになる3大理由は次の通りです。
1.できないから。分からないから。
勉強嫌いになる最初にして最大の理由はこれです。
基本的に、勉強が楽しい理由は好奇心と達成欲が満たされるからです。
しかし、できないわからないと好奇心も達成欲も満たされません。楽しい理由がなくなってしまうのです。
勉強が好きになると→たくさん勉強して勉強ができるようになる。成績が上がる。
と考えている人が多いのですが、実際は反対向きです。
勉強ができると、分かると→勉強が好きになるのです。
2.勉強はつらいもの、つまらないものだと教えられる
「勉強っておもしろい」
「テストが楽しみ」
こんなことを言いだすと、変なやつだと思われます。日本の社会ではなぜか、
「勉強はつらいものであるべきで、楽しくあってはならない」と教えられます。
生まれたときには楽しく感じていた勉強も、社会や学校で「つまらないものだ」と教育されてしまうのです。
3.勉強嫌いを作り出す魔法の言葉。「将来役に立つからね」
子どものためを思ってかけるこの言葉に、危険が潜んでいます。
まずは「勉強が役に立つ」かというと、概ね小学生で習うことについては正しいのですが、中学生以降から現実からの乖離が始まります。
ひらがなを習うとすぐに手紙を書けるようになるし、小数の掛け算ができると消費税の計算ができて役に立つのですが、中学生で習う二次関数を役に立てる場所はなかなかありません。
もちろん、二次関数がないと携帯電話も自動車も作れないし天気予報もできないので、ものすごく人類の役に立っているのですが、実際に二次関数を役立てている人は数%しかいないでしょう。
つまり、勉強したことが役に立つ可能性は数%ということです。
中学生以降、勉強嫌いが増える理由はここにもあります。実際は役に立たない事を「役に立つ」と教えられると、勉強は嫌いになり大人を信用しなくなります。
そして「将来」という言葉。
大人からみれば勉強する目的は将来のためなのですが、本来勉強が楽しいのは「できた瞬間」「わかった瞬間」です。
その楽しい瞬間を、将来に先延ばししなさいと言われるのです。
せっかく今勉強を楽しもうとしていても、それを許してくれないのです。
これら3つの理由で、子どもは勉強嫌いになります。
そしてそのうち2つは、完全に大人に責任があります。「勉強を楽しむな!」と教え込む大人たちです。
それななのに、「勉強を好きになりなさい」と言い出すのはまさにマッチポンプ。
わざわざ勉強嫌いにさせておいてそれはないでしょう、と子どもたちは思っているはずです。
さて、このように生まれたときは全員勉強好きである子どもたちですが、とあるタイミングで勉強嫌いになってしまうことがあります。
では一度勉強嫌いになってしまったら、どのように勉強好きに戻ればよいのでしょうか?
イベントではこの点についてもお話したのでまた記事にしますね。